チリンチリン、と風鈴の音が真夏の風に乗って居間に響く。
障子を開け放った和室には、胡座をかき団扇をそよがせるネジがいた。
その腕の中には、まだ一歳にも満たない小さな赤子がすやすやと寝息を立てていた。しかし少し暑いのか、うっすら汗をにじませ寝苦しそうに見える。
言ってはおくが、片腕に抱く少女は彼の子では一切ない。言うなれば彼の分家方の従妹なのだ。
この日向ネジ。母方の叔母に頼まれ、任務でいない彼女の夫と少しの間出掛ける彼女の代わりに、従妹・日向ヒカゲのお守りをしているのだ。
つい最近で十八歳になったばかりの彼にとっては、無論始めてのことだが、叔母曰く、様子を見るだけで良いとのことで、あっさり了承し、今に至るのだった。
ボーっと外の空を見ながら団扇をあおぐネジは夏生まれなため、このぐらいの暑さは平気なのだが、腕に抱く従妹にとっては始めての夏、そしてヒナタと同じ冬生まれなのも相まってか、寝ていてもじんわりと汗が滝の如く流れているのだ。
ネジは膝にある柔らかな手拭いで、叔母が出掛けてから何度目か分からぬ汗を拭ってやる。それに気付いたのかヒカゲは煩わしそうな唸り声を上げて、ゆっくりと瞼を開いた。
自分と同じ白い目に大好きな従兄が入ったのが嬉しいのか、にっこりと笑いかけ、淡(あわ)い桃色の袖を纏(まと)う左手をゆらゆらと彼に伸ばした。ネジも釣られて微笑み、手拭いを持っていた手の指をそっと彼女の手に持っていく。そして赤子とは思えぬ力で、きゅっと握られる。
苛烈極まる戦争から一年程が過ぎ、忍世界に平和が戻った。
取り戻した平和を楽しむ仲間達も。そしてその平和の中で生まれてきたこの子と他の子供達も。皆が幸せなものだと、今になっても思えてくる。そして自分でさえも、その幸福をこの身で味わっている。
六年程前では、感じることの無かった、幸福を――。
「う~、う~」
再び外を見て物思いにふけっていたネジは、ヒカゲの唸り声に似た声に疑問詞を浮かべながら左腕に視線を戻した。
ヒカゲは、何やら先程までネジが見ていた方向を向いて興味津々に見ており、何かを取ろうとするかのように左手を必死に上下左右に何度も動かしていた。
「…う~い~」
言葉になってない単語に首を傾げながらも、興味深げに見つめるヒカゲの視線を素直に辿ってみる。そして合点がいった。
どうやら、風に煽られ綺麗な音を奏でる、風鈴に興味を持ったようだった。
自分の胸元にヒカゲを抱き直したネジは、未だに片言を言いながら手を伸ばすヒカゲと視線を同じにした。そして落とさないようにすっくと立ち、縁側に歩み寄っていった。
「う~い~」
「そう、風鈴だ」
と言いながら、空いてる手で垂れ下がる和紙をちょんと摘まんで揺らしてやる。キンキンと澄んだ音に、ヒカゲはきゃっきゃと笑い、自分もやりたいとでも言うかのように手を小刻みに揺らした。
「ダ・メ・だ。落としたら危ない。それに、風で鳴るからこそ面白いだろ?」
ヒカゲの手を指先でそっと包み込んで引き戻したネジは、ぽけーっとするヒカゲをよそに、空を見上げ優しい微笑みで説いてみせた。小さな風で揺れて鳴る風鈴と高くそびえる雲を携えた遥か高い空に思いをはせながら。
そう言えば、幼い頃にヒナタ様にも同じような事を言ったっけな、と心で呟きフッと笑みを含ませたネジの表情は、これでもかと言う程、下忍の頃の彼では考えられない程の、――優しい笑顔。
「さあ、部屋に戻ろう。ここは暑い。もうそろそろお前の母上も帰ってくる頃だろうから、涼しい場所で大人しく待っていような」
しばらく物思いにふけていたネジは叔母がいつもしているように軽く揺すってあやし、きゃっきゃと喜ぶヒカゲを連れてもと居た奥の部屋へと入って行った。
その後、叔母の下(もと)にヒカゲ宛で小さなおもちゃの風鈴が贈られたのは、ほんの数日後の事だった。
なんか…、途中から適当感が出て来てる気が…。(・_・;)
この作品、お分かりでありますように、風鈴をテーマ(題材?)にして書いております。
タイトルの方も、風鈴でパッと思い付いたのが、この『すずやかなる』。
分家方従妹・ヒカゲちゃん、初登場させちゃいました。(苦笑)
ホントのところ、忍者学校(アカデミー)生Ver、下忍Verも考えてますが、
今は、赤ちゃんでwww。( *´艸`)
次回も参加するぞ――!!!(お―――!!)(^o^)/
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